続・晴耕雨読

東北在住のへっぽこ医師ばんじょーの日々思っていることをつづったブログです。週2回くらいの更新を目指しています。スパムコメント対策のため、 コメント時に画像認証をお願いしております。お手数ですがご了承ください。

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夢も、希望も、あるんだよ ~とあるアニメの話~

ばんじょーです、こんばんは。
例によってブログが放置気味ですみません…。そして例によって書き散らかしたいと思います。完全に備忘録ですみません。
最近、『魔法少女まどかマギカ』というアニメを見たんですけど、面白いですね。タイトルからほのぼのアニメかと思いきや、思いっきりダークファンタジーで、仕事ですり減りつつある自分のどす黒い心にぴったりフィットです。
ストーリーとしては、ネタバレしないよう例えて書くと、高利貸しみたいな組織が、甘い言葉で少女たちをだまくらかして、魔法少女にしてあげるかわりに少女たちを借金地獄に落としてくような話です。しかも、借金地獄に落ちた見ず知らずの少女たちを助けるために別の少女が高利貸しから借金をして魔法少女になって、その借金を肩代わりする代わりに彼女たちが新たに借金地獄に陥るっていう(そしてみんな借金地獄の仕組みに気づく前に死んでしまう)。
こう書くと救いようのない話に聞こえますが、あながち大筋からは外れていないのではないかと思います。まぁ、テーマも実際救いようがないと思いますし。
さて、高利貸し組織は、少女を魔法少女にする際に”何でも一つ願いを叶えてあげる”という特典をつけてきます。かっこいい魔法少女になれて、しかも願いごとが叶うってことで、いたいけな少女たちがひっかかってしまうわけですね。この願い事で気になったことを一つ。
唐突ですが、昔話に出てくる、願い事をかなえてくれる精霊っていますよね。ランプの精霊みたいな感じの。
そのランプの精霊が「願い事を一つなんでもかなえてあげよう」って言ってきたとき、例えば「(その精霊に対して)死んでください」とか「もう二度と願いをかなえないようにしてください」っていう願いをしたら、叶えられるもんなんでしょうか。そんな願いをするような寓話は聞いたことがないのですが、おそらく「願い事の数を100個に増やしてください」という願いが不文律としてダメであるのと同様に、精霊に不利益を及ぼす願い事もおそらくダメなんだと思います。
このアニメの主人公は、救いようのない魔法少女の負のスパイラルの仕組みに気づき、最終的には魔法少女を借金地獄から解放し、高利貸し組織の借金システムをぶち壊すような願いをかなえるよう要請します。結果としてその願いは成就され、話に救いが見いだされるわけです。
それについて、アニメ上は自然な流れで願いがかなっちゃいましたが、ハッピーエンドにもってくために、本来高利貸し組織はかなえるわけにはいかない願いがかなえられてしまったわけで、そこにストーリーの矛盾を感じてしまいました。とはいえ、それ以外は非常に完成度の高いアニメで、各所での評価も高い様子です。辛口ダークファンタジー好きには、そうでなくてもお勧めの作品です。
今回はアニメの紹介でした。アニメばっか見てないで仕事しろって話ですねそうですね。ということで、今日は頑張ろうと思います。
では。

リンク
「まどか☆マギカ」で考える「インキュベーター」の役割
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  1. 2011/08/27(土) 03:51:00|
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医療マンガを斬る・その2 ブラックジャックとか刃牙とかCushing症候群とか

ばんじょーです,こんんばんは.

今年の11月3日で手塚治虫生誕80周年なんですね.渋谷パルコで記念展示会が開かれてるそうです.東京にいたときはよく渋谷に遊びに行ってたんですが,秋田にいる身としてはなかなか行く機会がないですね.東京に行く機会があっても,若者の街渋谷の雰囲気に違和感を感じるようになっちゃったので,ちょっと足が遠のいているのですが.

手塚治虫といえば,ブラックジャックが代表作の1つですね.この漫画にあこがれて医者を目指した人も多いはず.僕もオペが上手ければどんな癌も治せると思っていたものです(遠い目).僕は外科志望ではないので,いずれオペをする機会はないのでしょうが.
さて,ブラックジャックの中で,僕にとって印象深い話の1つに,『満月病』があります.Cushing(クッシング)症候群にかかって体型がすっかりかわっちゃった美人の娘が,金持ちのボンボンの彼氏に振られて絶望して引きこもりになってしまうんですが,そこに唐突に現れたBJが,例のごとくオペで病気を治します.
その後回復した娘に「よりを戻そうぜ」って調子よくボンボンが言い寄ってきたのですが,病気で自分を捨てた男なんかと今更つきあわないわ,って娘が拒絶します.それでもしつこく付きまとうボンボンを,横から突然現れたBJがぶん殴って追っ払うと,今度はボンボンが猟銃を持ってきてBJに向けて威嚇すします.しかしBJが投げたメスが銃口に入り,ビビッたボンボンは逃げ去ります.
その後,娘が「なんでBJは私を助けてくれるのかしら…」って不思議に感じていると,実は自分の父親がBJと親しくて,その父親への恩を返すために娘を助けたんだ,ということが分かる感動ストーリーなのでした.さすがのBJもこの回は治療費は請求していません.

BJは何気にヒューマンドラマだけでなく,バイオレンス&ホラーな要素もあったりします.昔は秋田書店でも「ホラー」にジャンル分けされていたくらいでした.

BJが後頭部を殴打されて気を失うこともままありましたし,BJ自身も容赦なく人にメスを投げつけています.例えば『話し合い』という回では,「先公の一匹や二匹死んだっていい」とのたまう暴力的不良少年の喉にメスを突き刺しといて,挙句にその治療費を不良からふんだくったりしたりしています(マンガでは担任の教師が立て替えていた).普通の医師ならとっくに医師免許剥奪なのですが,BJは天才かつ無免許医なので,何をやっても許されるんだと思います.

BJ自身も手を汚しまくっているというあたり,倫理観という枠の中に納まらないところが,単なるヒューマンドラマで終わらないBJの魅力の一つなのでしょう.
いずれにせよ手塚治虫先生が『ジャングル大帝』が売れないあまりやさぐれた気持ちで書き始めた作品だけあって,先生の負の情念がいかんなく反映されていると思います.

さて,倫理の枠を大きく外れた医者というのは,キャラクターとして確立しやすいためか,いろいろな漫画で見られるようです.
例えば,『グラップラー刃牙』という.主人公の刃牙(バキと読みます)が世界一の強い格闘家を目指して日々修行したり強者と闘ったりしている,格闘技漫画会では超メジャー級の漫画があります.出てくる人たちも,素手で自由の女神を半壊させたり全長数メートルの北極熊を撲殺したりと,もしそんな人間が本当にいたら現実世界の格闘家を絶望の淵に叩き落してしまいそうな方々ばかりなのですがが,そんな登場人物の1人である鎬紅葉(しのぎくれは)という医者兼格闘家も,いろいろな意味で社会の規制から逸脱したキャラクターとして描かれています(画像は『バキ外伝 -疵面(スカーフェイス)-』より).
紅葉

身長184cm体重131kgという体格を持ち,筋肉を鍛えまくったあまり「筋肉の要塞」というあまり嬉しくない呼び名を付けられてしまっている方なのですが,彼の恐ろしいところはそのありあまる筋肉ではなく,むしろその価値観にあります.例えば,自分の力を誇示するためだけに深夜にサーカスに忍び込んで無実の虎を縊り殺したり,ホテルのドアにパンチ連打をかましてボコボコにした挙句に弁償せずに逃げ去ったり,さらには自分のオペの手技を確立させるために多数の患者さんを実験台にしたりと好き放題していました.主人公の刃牙も一度彼と闘って,顔面のいろんな場所から血を噴出させられるというとんでもない目に合わされていました.

いたいけな少年少女が見たら「医者ってなんて恐ろしい職業なんだ」と怯えてしまいそうな紅葉先生なのですが,アニメ版では「無免許医」という属性を付加されることによって,少なくとも作者が日本医師会から糾弾される危険性は回避されたと言えるでしょう.そんな紅葉先生も,格闘漫画にありがちな強さのハイパーインフレーションの中で「そこそこ強いキャラクター」の位置づけとして落ち着いて,現在では怪我人を治すという本来の医師の役目に専念しているようです.

ちなみに鎬先生の弟は手刀を相手の身体に突き立てて神経を切断するという,これまた血も凍るような魔技の使い手でした.彼は特に好んで頚動脈の横の神経を切断して,相手の視力を奪うという戦法を使っていましたが,そこには解剖学的に視神経は通っていません.そこを切っても,実際にはせいぜい交感神経を切断して瞼が下がるくらいの効果しか出ないでしょう.厳密に分析すれば突っ込みどころ満載の技ではありますが,使い手である彼の登場の機会が最近はめっきり減っているため,彼の存在とともに技自体も記憶の底に封印されれば誤った知識が人口に膾炙されることもなくなるのではないかと思います.

他にも『刃牙』にはステロイドの打ちすぎで北極熊を素手で倒せるくらい強くなっちゃった人とか,恐竜の肉ばかり食べてたら恐竜並みの骨格と筋肉になっちゃった人とか,生物学の常識を無視した人たちが沢山出てきますが,「科学的に間違ってる!」とか目くじら立てるよりは,地球とよく似た別の惑星で起こっている出来事なんだ,くらいの解釈をもって,大らかな目で見守ってあげるといい作品なんだと思います.

さて,ここからまじめな話.最初に挙げた満月病なのですが,これは正式にはCushing症候群という名前が付けられています.

Cushing症候群とは,アメリカの脳外科医Harvey Cushingによって報告されたCushing病に似た症状を示す疾患群のことです.
主な症状は肥満・高血圧・糖尿病症状・そしてBlack Jackにもあった満月様顔貌.これらの症状は副腎皮質ホルモンが普段より多く分泌されることが原因となって起こるのですが,ホルモンが大量に分泌される引き金が脳の腫瘍にある場合,特にCushing病と呼ばれています.ちなみに副腎皮質ホルモンは腎臓の上にちょこんとのっかってる副腎皮質から分泌されます.そのまんまだけど一応解説.

Cushing症候群とは別に,Cushingの名を冠する病態や現象がいくつかあります.

一つはCushing現象.これは,脳出血などが生じたときに,脳の血流を増やすために身体の調節機構の働きによって血圧が上がり,同時に血圧が上がり過ぎて心臓に負担をかけないために脈拍数が下がるという現象です.救急で脳血管障害の患者さんが来たときはよく見られると上級医が言っていました.

もう一つはCushing潰瘍.脳出血などの中枢神経の疾患がある患者さんに出来る消化管潰瘍(胃潰瘍など)のことです.理由は分からないけど,脳に障害があると消化管に潰瘍が出来やすいらしいです.

この2つは,残念ながら発見者が誰かを探し当てることは出来なかったのですが,Harvey Cushingが脳外科学分野を築いた先駆者でたくさんの業績を残した人物であることや,Cushing潰瘍が報告された1931年がHarvey Cushingの活躍した年代にあたることから,両者ともCushing氏の発見である可能性は十二分にあると思います.

で,このCushing潰瘍と間違えやすいものにCurling潰瘍(カーリングかいよう)というものがあります.これは火傷を負った患者さんに生じる消化管潰瘍のこと.なので,火傷を負った患者さんに制酸薬(H2ブロッカーやプロトンポンプインヒビターなど)を予防的に投与したりします(って問題が試験に出たりする).

この2つの潰瘍,名前が似ているのでどっちがどっちか分からなくなるときがあります.でも,Cushingの名前が付くものは基本的に脳に関係していることを思い出せば,Cushing潰瘍は脳神経疾患に付随して起きる潰瘍だって分かるはずです.ちなみにCushing病の原因病巣が脳下垂体だったっけ,それとも副腎だったっけ,って迷ったときも,Cushingが最初に発見したから”病”って名前がついてるんだ,って考えると,これまた脳が原発だって出てくると思います.

以上,医学生向け試験対策知識でした.ほとんどの人にとって役立たない知識だとは思うけど,読んでくださってありがとうございます.
前半部分は,「ちゆ12歳」様と似た文体になっちゃったけどご容赦を.批判的に書いちゃいましたけど,上記の漫画,2つともとても面白いですよ.ばんじょーはブラックジャックとグラップラー刃牙を応援しています.
  1. 2008/11/03(月) 22:03:43|
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医療マンガを斬る・その1 街に名医があふれてる!?~「最上の命医」の考察~

今度友達と鍋パーティをやることになりました。
何鍋を作ろうかって話から、旬のものを入れたいねという話になって。

「それだったら、偽装比内地鶏鍋なんていいんじゃない?」

…確かに色んな意味で旬ではあるけれども…。ブラックですみません。
ちなみにデザートは赤福で(おい!)。


さて今回は、週刊少年サンデーで始まった「最上の命医」というマンガの話。
どんな話かというと、かつて大血管転位TGAの根治手術により小児心臓血管外科医に命を助けられた主人公「命」君が、物体の立体構造を正確に把握できるという能力と、医学知識大好きで医学知識ならあっという間に吸収してしまうという才能を武器に、スーパードクターへの道を歩む、って話である(と思われる)。

…そういう才能、僕も欲しいです(涙)

どれだけ医学知識豊富かというと、命君、小学生にしてTGAのShaher分類5型の冠動脈移植について語っちゃうくらいですから。
…いや、Shaher分類なんて、YearNote2007にもSTEP循環器2版にも朝倉内科学8版にも載ってないし(そもそもShaher分類って、ネットを見るとTGAの分類じゃなくて心臓の冠動脈の分類っぽい気がするんだけど、どうだろう?とりあえず、卒試にShaher分類が出たら軽く死ねます)。まったくとんでもない小学生である。

でもね、読んでていろいろ疑問に思うところがあるんだよね。

話の後半で、主人公が夕方に友達と海釣りに出かける場面がある。そこで、友達が風と波にあおられて、船のへりに胸部をぶつけてしまう。その後しばらくしてから、友達の顔色が悪くなって、血圧が低下し、心音が聞き取りづらくなってくる。

…まずどうやって心音を聴取できたのか、って問題は些細な問題なのでおいておいて。きっといざというときのために聴診器持参で釣りに来ていたのでしょう。

ちなみに、僕の師匠であるK先生は、鞄の中に打鍵器を入れたままうっかり旅行に出発し、空港の金属探知機でひっかかった経験があるそうです。僕も医療器具を肌身はなさず持ち歩くくらいの情熱を維持したいものです。

命君は携帯を使って知り合いの小児心臓血管外科医に症状を話し、そしてこう言います。
「たぶんこれは…、外傷性の心タンポナーデだよ!」
医者「!!…そ、そうか…」

どうやらこの先生は納得したようです。う~ん、腹部臓器損傷→腹腔内出血によるショック状態で血圧低下・心音微弱とかも考えられそうなんだけど…(ちなみに実際に心タンポナーデを診断する場合は、心臓超音波検査、心電図、胸部X線写真などの検査を行った上で確定診断するはず)。おそらくきっと漫画では語られていない明確な理由があって鑑別診断を行ったのでしょう。きっとそうに違いない。

でも、心タンポナーデと確定診断(!?)したものの、命君と友達は遠くに船出していて、医者はすぐに駆けつけられそうにない。そうこうしてるうちに、友達のチアノーゼは悪化し、呼吸も乱れはじめてきた。そこで医者は、こう言いました(桜塚やっくん風に)。

「俺たちも救助隊ももう間に合わん…だから…」
「お前がその子を治せ」

えええ~!!?やっくんだってそんな無茶振りしないよ!
そして、医師免許どころか、正規の医学教育だって受けていない小学生に、「お前心タンポナーデの処置は知ってるな」と言って携帯電話によるガイド下で心嚢穿刺させる恐るべき医師がここに。

命「俺、やってみる!」
命君は、得意の空間把握能力を生かして、薄暗がりの中揺れる船の上で、超音波も使わずに正確に心嚢に留置針を突き刺し、心嚢内の血液を排出して友達を助けましたとさ、めでたしめでたし。

…もう、船の上に都合よく留置針が用意されていたことなんてどうでもよくなってきました。

一応解説すると、心タンポナーデは心臓を包む心嚢という膜と心臓との間に血液などの液体が貯留し、そのため心臓が膨らまなくなって循環不全に陥る疾患である。貯留した液体を排出すれば症状は改善するけど、心破裂で心嚢内に血液が出ている場合は、心嚢から血液を排出しても、心臓から心嚢内への出血が続くため、続けて処置を行う必要がある。今回のケースでは心嚢穿刺してヤッター、って感じで終わったけど、もしかしたら心嚢内での出血でとどまってたものが心嚢外にどんどん出血して、友達が失血死する恐れだってあったわけだ。

僕はまだ医学生だから、鑑別疾患は出血性ショックだとか、心嚢穿刺後の出血を考慮に入れないで処置するのはまずいんじゃない、くらいのことしか言えない(もちろん手技なんてとんでもない、ってレベルです)。けど、臨床の先生はそれこそもっとたくさんの鑑別疾患を挙げて、適切な検査を行って、心奇形や合併症などの影響も考慮に入れて治療を行うんだと思うんだよね。そういう現実(実際は僕も心タンポナーデの治療は見たことがないんだけど)の困難さを抜きにして、「胸部を打撲して、心音微弱だから心タンポナーデに決まり。心嚢穿刺したらすぐ治っちゃった」っていう物語を作られると、心タンポナーデって誰でもすぐに治せる疾患だと世間で思われてしまうんじゃないだろうか。医者を目指すものとして、僕はすごく不安になる。

「いや、たかがマンガだし、そんなに深刻に考えることはないでしょう」って思うかもしれない。
でもね、マンガの影響力って馬鹿にならないと思うし(ブラックジャックを読んで医者になりたいと思った人は多いはず)、実際に世間では医者なら誰でも心タンポナーデを治療できて当然と思われつつあるという感じがする。

例えば、日経Medical2007年10月号で、とんでも医療裁判特集が組まれていのだが、そこで紹介されている判決の1つに、脳神経外科医が心嚢穿刺を失敗し、患者は死亡。それが元で訴えられ、4900万円の賠償額となったという案件がある。

どんな案件かというと、1993年に奈良県立五條病院に救急搬送された交通事故外傷の患者が急変したため、担当の医師である脳外科部長が心タンポナーデと判断し、心嚢穿刺したがうまくいかず、その後患者が死亡したというものである。ちなみに医師はエコーなしで心嚢穿刺しているが、それは当時はエコーは標準的なものではなかったためで、医師の落ち度ではない。

解剖を行っていないため、心タンポナーデが本当に死因だったのかも不明であった。ゆえに、この医師の穿刺の手技は適切であったが別の原因(腹腔内出血など)で患者が亡くなった可能性もあるが、今では事実は分からない。

問題は、裁判所が死因を心タンポナーデを死因であると断定し、かつ脳外科医であっても心嚢穿刺は出来て当たり前である、専門外とはいえ心嚢穿刺を失敗した場合は医師の過失となる、と判決を下したことである。もし心嚢穿刺を行う自信がなく、行う医師が病院内にいなければ、他の病院に搬送するという判断を下すべきだった、とも裁判官は述べている。

…いや、緊急時に「心嚢穿刺できないから10km先の病院に急いで搬送してください」なんてありえないから。

こういう、医療の現場を知らないであろう裁判官や弁護人による、医療人から見れば無茶苦茶な判決が増えているように見受けられる。そして、そういう判決が、「昔読んだマンガで、簡単に心嚢穿刺してたから、心タンポナーデってたいしたことない疾患なんだ」っていう思い込みによって導かれないとも限らないのである。

もちろん、治療がうまくなされないことによって患者さんが苦痛を感じることも、遺族が辛い思いをすることも分かります。でも、現場を知らない判決によって医療の現場が混乱して、どういう治療を行うのが適切かの判断に支障をきたすようなことがあれば、結局被害を受けるのは患者さんだと思うんですよ。
「もしかしたらここで緊急処置を行えば治療できるかもしれないけど、前の判決もあるし、訴えられると怖いから、念のため別の病院に搬送するか」ってことになって搬送中に患者さんが亡くなったり後遺症を負うことになったら、それこそ患者さんも医師もやりきれないなぁ、と思うのです。

別に僕は医者の利益を守るためだけに医療裁判の批判をしているわけではなくて、患者さんも医者も含めて社会全体が功利を享受できるような、そんな社会システムが出来るといいな、と。そしてそのシステムをGoalに描いた上で、裁判所は判決を下して欲しいな、と思うのです。

…志は、高く持ちたいものです。



PS ただ、社会システムは第三世代オートポイエーシスによって説明されるような、循環的に自己組織化する構造だと思うから、定型的にGoalを思い描くのは難しいかも知れないけどね、うふふ、と謎かけをしてみる。
  1. 2007/12/10(月) 02:20:37|
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